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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)1530号 判決

被控訴人が別紙目録記載の土地につき、昭和二十三年九月十五日附買収令書によつて為した買収処分はこれを取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を、被控訴代理人は控訴棄却の判決を各求むと申立てた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴人において次のとおり釈明した外原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴代理人の当審における釈明、

控訴人が本件買収処分取消の原因として主張するのは次の三点である。(一)控訴人は本件農地買収計画を不服として茨城県農地委員会に訴願したところ、同委員会はこれに対し何等の裁決を為さず(従つて今に至るもその裁決書の送達はない)、その裁決なきままに本件買収処分が為されたのである。然るに買収計画につき訴願が繋属するときは、県農地委員会は裁決並に裁決書の送達後でなければ買収計画に対し承認を与うべき筈はなく、その承認に先立ち買収処分を為すが如きは違法である。それ故本件においては買収処分はその前提たる県農地委員会の承認なくして発せられたものであり、その不適法のものたること明かである。(二)山川村農地委員会が別紙目録記載の本件農地につき買収計画を樹立してこれを公示したのは昭和二十三年三月二十三日であるが、該農地についてはこれより先昭和二十二年七月二日附を以て被控訴人茨城県知事の買収処分が為され、控訴人はこれに対し水戸地方裁判所に買収処分取消の訴訟を提起し係争中であつた。右訴訟の審理が進行するにつれ、買収処分の基本たる買収計画(第一次)には幾多不法の廉があり、該処分を維持すること至難な事情が判明するや、同県知事は進んでこれを取り消すことに決し、昭和二十三年四月五日附山川村農地委員会に対する指令を以て買収令書の回収方を命じ、同月八日頃控訴人は同村農地委員会を経て買収処分取消の通知を受けて買収令書を返戻し、ここに第一次の買収処分は取消手続を完結したのである。然るに同村農地委員会は不法にも右取消処分に先立ち即ち本件農地の所有権が第一次買収処分の効果として国に帰属し、未だ控訴人に復帰せざる間において、同年三月二十三日早くも本件第二次の買収計画を樹立して公示したのである。かゝる買収計画が違法であり、これに基く買収処分の不適法として取消さるべきことは多言を俟たない。(三)更に本件買収処分は実体上より見るも違法である。即ち控訴人は昭和十九年三月以降本件農地所在地たる山川村に住所を有し、所有農地の一部である同村粕礼一、七〇九番の一、田三畝二十一歩を現実に自作していたのであるから、この事実を無視し控訴人を不在地主と認定して為した買収処分は取り消さるべきである。(証拠省略)

三、理  由

控訴人所有の別紙目録記載の土地につき、訴外山川村農地委員会が昭和二十三年三月二十三日これを不在地主の所有農地と認定して買収計画を樹立し、控訴人はこれに対し異議の申立をしたけれども却下の決定を受けたので更に茨城県農地委員会に訴願したこと及び被控訴人が右買収計画に基き同年九月十五日附買収令書を以て買収処分をしたことは本件当事者間に争がない。

控訴人は先づ買収計画につき県農地委員会が承認を与えるには、その前提として買収計画に対する訴願の裁決を為すことを要するに拘らず本件においては未だ裁決がなく、従つて裁決書の送達もないのであるから、右承認の為さるべき筈はない、それ故本件買収処分は県農地委員会の買収計画に対する承認なくして為された不適法のものであると主張する。よつて以下この点につき審究するに成立に争のない甲第十六号証の一、二乙第七号証の一、二並に当審証人池羽柄四郎の証言によれば、茨城県農地委員会は昭和二十三年五月三十一日控訴人の訴願につき委員会を開いて審議を遂げた上右訴願を棄却する旨の裁決を為し、同日附の裁決書を作成したことが明かであり、控訴人挙示の証拠によつてはこの認定を動かすことはできない。然しながら被控訴人の主張するように右裁決書がその頃控訴人に送達されたことはこれを確認すべき何等の証拠がなく、却つて原審並に当審における控訴本人尋問の結果によれば、当時その送達の為されなかつたことは勿論、今に至るも裁決書の送達がないことが認められるのである。乙第六号証の三、四、五(山川村農地委員会の裁決書送達関係書類)には、昭和二十四年九月十五日山川村農地委員会が控訴人に裁決書を交付して送達した旨の記載があるけれども、記録上明かなように被控訴代理人は原審昭和二十五年四月二十七日及び同年七月十八日の各口頭弁論期日において裁決書送達の日時につき釈明を求められ、その都度次回期日までに取調べて明かにすると述べた上、次で同年九月十九日の口頭弁論期日に「茨城県農地委員会は昭和二十三年五月三十一日原告の訴願を棄却する旨の裁決をし、同年六月上旬右裁決書を原告に送達した」と陳述しており、若し昭和二十四年九月十五日送達したのが事実であるとすれば(このことはさして調査を重ねずとも官庁内部における一片の照会連絡により容易に知り得る筈である)、何が故にこの事実を述べないで昭和二十三年六月上旬送達を了したというような無根の陳述を敢てしたのか甚だ諒解に苦しむところであり、従つて被控訴人が他に的確な資料を提出せざる以上、右乙第六号証の三、四、五の記載がそのまま真実に合致するものとは即断することはできない筋合である。仮にその記載の如く昭和二十四年九月十五日裁決書の送達が為されたとしても、それは裁決後実に一年を経且つ本訴提起後なお十一ケ月を過ぎた後のことに係り、少くも買収処分の為される以前において裁決書の送達がなかつたことは争う余地がないのである。然るところ、農地買収処分については自作農創設特別措置法第八条第九条においてそれぞれこれに至るまでの手続の段階を設け、基本たる買収計画につき適法の期間内に訴願が提起されたときは、これに対する都道府県農地委員会の裁決があつた後にその承認を受け、右承認を経た買収計画に基いて都道府県知事が買収令書を交付して為すべきことを規定している。而して裁決は訴願人との関係においては裁決書の送達によつて初めてその効力を生ずべく、訴願につき裁決をしたときは都道府県農地委員会は遅滞なく裁決書の謄本を訴願人に送付すべきものであり(自作農創設特別措置法施行規則第四条第二項)、買収計画に対する承認こそ上級行政庁より下級行政庁に対する単なる内部的意思表示に過ぎぬ性質上、裁決があれば裁決書送達前でもこれを為しうるものと解されるけれども、買収令書の交付によつて為される買収処分に当つては、その前提として既に裁決書が送達され裁決が外部にその効力を生ずるに至つたことを要することは前掲各関係法条の解釈上多く疑を容れないところである。蓋し訴願に対する裁決書の送達を為さずして買収令書が交付されるときは、裁決のあつたことを知るに由なき訴願人に対し或は後日訴願が認容されて買収処分の効力が覆されることもありうるものとの誤れる期待を与え、為めに機宜の措置を失せしめ、或は行政庁が訴願審査の如きは全く放擲し、法の許与した訴願権を無視して一図に買収処分を強行するものとの誤解を抱かしめ、農地買収に関する国の行政運用に対し甚しき不信の念を生ぜしめる結果ともなりうるので、自作農創設特別措置法はかゝる無用の混乱と誤解を避ける為め、訴願提起後買収令書交付に至るまでの手続を厳に法定し、買収処分前訴願裁決書が送達されて訴願手続完了したことを買収の前提としたものと解するのが相当であるからである。それ故法の定めた手続の順序に依らず訴願裁決書の送達を俟たずして為した買収処分は明かに違法として取消を免れぬものというべきである。

然らば控訴人の提起した訴願に対する裁決書を全然控訴人に送達しないか若しくは少くも買収令書交付前これが送達を為さずして本件買収処分をしたのはもとより違法であるから、爾余の点につき判断をするまでもなく、該処分の取消を求める控訴人の本訴請求はこれを正当として認容すべく、以上と所見を異にする原判決は不当であり、本件控訴はその理由がある。よつて民事訴訟法第三百八十六条第八十九条第九十六条に則り主文の如く判決する。

(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)

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